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「インフル新薬」には飛びつくな!感染症の賢人・岩田健太郎が「僕なら絶対に買いません」と語る理由

『インフルエンザなぜ毎年流行するのか』より

■日本人の「点滴信仰」

「ラピアクタ」は注射薬です。だから、外来で「インフルエンザ」と診断されたら、処置室とかで看護師さんに点滴をつないでもらい、そこで治療しなくてはなりません。

 冬は病院が忙しい季節です。インフルエンザのような感染症が流行しますし、心筋梗塞のような血管の病気も増えます。忙しい外来で、処置室のベッドを埋めて、看護師さんたちに余分な仕事をしてもらうのはあまり効率的なやり方とは言えません。

 もちろん、それで患者さんがよけいによくなるのならば、いいのかもしれませんが、前述のようにノイラミニダーゼ阻害薬の治療効果はどれも似たり寄ったり。とくに、ラピアクタだからといって効きがよくなるわけではないんです。

 話はちょっとずれますが、日本では患者さんの「点滴信仰」みたいなものがあり、点滴を打つと元気になると信じておいでの患者さんがとても多いです。

 真っ赤な間違いです(まじで)。

「いわゆる」点滴には、水と塩と砂糖しか入っていません。ときどき、それにビタミン剤とかが入っていることもありますが、まあどれも「気休め」なものです。ラピアクタも他のノイラミニダーゼ阻害薬と効果は違いません。要するに、イメージだけが先行しているのですが、点滴だからいいってことはないのです。看護師さんは貴重な人的リソースで忙しいので、もっと患者さんの役に立つことにその能力をふりむけるべきです。

 それに、インフルエンザは感染症で周りの人に伝染ります。ですから、ぼくはできるだけ速くインフルエンザを診断して、治療して、患者さんが病院の外にすぐに出られるよう最大限の配慮をします。ずっと病院の中にいれば、待合室などで他の患者さんに伝染したり、医療従事者に感染させたりするからです。スタッフはほとんど全員インフルエンザ・ワクチンを打っていますが、すでに述べたようにワクチンは完璧ではありません。スタッフがインフルエンザを発症すると感染対策のために仕事を休まねばなりません。それだけ医療のパワーダウンになり、結局は患者さんの迷惑になります。

 お分かりでしょうか。処置室で30分とか1時間かけて点滴の薬を落とすと、その間、周りの患者さんや看護師さんにインフルエンザを感染させるリスクが増すのです。なのに、治療効果は上がらない。これはあまりにも稚拙なやり方です。

 だから、ラピアクタは入院が必要で口から薬を飲んだり吸入ができない患者に限定した薬ということになります。外来で使うのはあまりに非戦略的すぎます。ちなみに、仕程、「気休め」と書いた「点滴」も口から飲めない患者さんに対しては脱水を防いだり治療する非常に効果的なツールになります。医療はたいてい、「よい、わるい」で切ことはできず、「適・不適」だけがあるのです。手術の必要がない人に手術するのは悪いことですが、必要な人には手術はよいことです。ま、そういうことです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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